神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

《五》思いもよらぬ、知らせ


      《五》

「オレのことは気にするな。一人で大丈夫だ」

と言われたものの、瞳子からすれば、セキは異郷人だ。ある程度の知識はあっても、ひとり広い屋敷に残されるのは不安だろう。

(それに、セキって基本『上げ膳据え膳』で生きてきてるよね……)

一番は火の元が心配だが、それ以上に知識があるからと言って、何もかも一人でこなせるとは思えない。

(特に食事。絶対なにも作れなさそう)

まるで一葉が、大型犬の仔犬の世話を目の前で放り出したかのようにも思え、瞳子はあきれつつもその晩から白河家の別邸に泊まることにした。

───明けて一夜。

(ちょっと。あんなこと言っておいて、夜這(よば)いの気配すらなかったのは何事よ?)

一葉は言葉通りセキの部屋の隣に瞳子の寝室を用意してくれていた。
ふかふかの布団一式も、和装の寝間着も肌着も新品で。一葉が用意したのかと思うと複雑といえば複雑だが、真新しい物を身につけるので抵抗は少なかった。

問題があったとすれば、セキだ。
ここへ来る途中「今晩、試してみるか」などと、瞳子をからかってみせたにも関わらず、キスひとつされずに朝を迎えてしまった。

(まぁ、セキのことだから、私の気持ちを考えてのことだろうけど)
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