神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「おはよ、セキ」
「……おはよう、瞳子」

台所は旧式ではあったが手入れがきちんとなされていて、庶民の瞳子は逆に使いやすくもあった。
そこで朝食の支度をしていると廊下を通る人の気配がして、見に行けば濡れ髪にタオルを(かぶ)ったセキがいた。
Tシャツにスエットのラフな装いで、寝起き感丸出しなのだが、少し眠そうな表情が可愛らしい。

「……朝風呂?」
「ああ……どちらかというと、水浴びに近いな。湯が、どうにも合わなくてな」
「え、風邪ひかないでよ?」

思わず手を伸ばし触れたセキの頬が、しっとりと冷たい。
母親か犬の飼い主のような発言をした瞳子をどう思ったのか。一瞬、セキが目を(みは)ったように見えた、直後。

「……瞳子は、あったかいな。それに、やわらかくて気持ちいい」

幾度となく抱きしめられたはずなのに。その腕の中で感じた力強さと鼓動が、やけに近くて。

「ちょっ……! 朝から……!」
「ああ、悪い。まだ寝ぼけてるのかもな。……実感が、わかなくて」
「なに、実感て」
「瞳子が、オレの側にいてくれてるってこと、かな?」

背中を伝うセキの指先が、確かめるように触れて、離れて行く。
最後に、寄せられた頬でもって頬ずりしたあとニッコリ笑って「着替えてくる」と、セキは自室に戻って行った。
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