神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
(ホンっト、犬なんだからっ……!)

そのくせ、触れてくる手指と息遣いがやけに艶っぽい。夜這いはなくても、朝のスキンシップが過ぎるのはいかがなものか。

痛いくらいに高鳴る心臓をなだめつつ、瞳子はその背中に朝食ができていることを知らせるのだった。



幸いといっていいのか、その日、瞳子はシフト上 公休となっていた。
昔の上司である(たちばな)誠司(せいじ)は、瞳子の勤務先のスーパータチバナ───ようするに、家族ぐるみの会社だ───の経営陣の一人だった。

現在は県内に十数店舗を構える地元では有名なスーパーだが、瞳子が入社した当時、まだ市内に本店ともう一店舗、近隣の市に二店舗の展開だった。
瞳子の最初の配属先が本店で、その時の店長が橘誠司、現専務取締役となっていた。

「話、聞いてもらえそうか?」
「うん、今日は無理だけど、明日の午前中なら大丈夫だって」
「そうか」

朝食後、食器などの洗い物をセキに任せ、別室で橘にアポを取りつけた瞳子が台所に戻ると。ちょうど、セキも片付けを終えたようだった。
その手際を見ると、一人でも平気だというのはどうやら事実らしい。

「……アンタ、冗談抜きで私いなくても大丈夫だったりする?」
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