神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
私がここに残った意味ないかも、と。
内心で瞳子がすねた想いをいだいて尋ねると、セキの苦笑いが返ってくる。

「まぁ、一葉殿に、一人でも困らない程度にはいろいろ教わっておいたからな。ただ」

椅子の背もたれに両腕をあずけたセキが、そこにあごをのせ、上目遣いで瞳子を見てきた。

「瞳子の朝餉(あさげ)、めちゃくちゃ美味(うま)かった。……また食いたい。駄目か?」
(……っ、もうッ、この大型犬めっ)

無論、瞳子がそんなセキに対し、すげなく断れるはずもなかった。



アパートの片付けと、当面の着替えの持ちだしなども含め、一度 自宅に戻ろうとした瞳子に、セキも付いてきた。

「……瞳子、片想いの相手は、犬か?」
「え? 違うわよ、猫」

契約駐車場がアパートから少し離れているため、通りすがりの散歩中の甲斐犬をなでさせてもらうのは、日課ではあった。
そして、一葉は誤解していたようだが、セキはさすがに瞳子の言葉を理解していたとみえる。……やや外れたが。

「あー……犬貴殿を気に入ってたから、てっきり……そうか、猫か……」
「あ、犬貴さんて、黒虎毛だよね、甲斐犬! カッコ良いよねぇー」
「……だな、うん……」

その、図体のデカさと不釣(ふつ)り合いなしょんぼりとした同意に、瞳子は思わず噴き出した。
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