神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「ありがと。セキのお陰で大分はかどった」
「オレのほうこそ、手伝わせてくれてありがとな」
「何それ」
「瞳子のことが知れて、楽しかった」

ひとまず、瞳子の軽自動車に積載可能な分のダンボールを乗せ、白河邸に戻る帰り道。街中で、渋滞につかまっていた。
感謝を告げる瞳子に、セキは満足げな微笑みを浮かべてみせる。

(コイツ、ホントさらっとこういうこと言う!)

相手に負い目を感じさせない気遣いに()ける。しかも、どこまで計算か解らないほど自然な口調。

瞳子は、そんなセキから寄せられる想いにむずがゆさと愛おしさを感じながらも、あえて素っ気なく訊いた。

「……夜、何が食べたい?」
「え?」
「アンタの好きな物、食べさせてあげる」
「──……あー、そうだな。瞳子が作ってくれるなら、何でも」

一瞬の沈黙ののち。なぜか()き込んで返ってきた答えに、瞳子はムッとする。

「何でもが一番困るけど……まぁいいわ。アパートから持ってきた食材で適当に作るから。文句言わないでよ?」
「まさか。瞳子がオレのために作ってくれるなら、毒入りでも食うぞ」
「入れないわよ、そんなもの!」

ハハッと笑うセキの軽口をいなしながらも、瞳子は彼の態度の不審さを胸中に留めおくのだった。



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