神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
翌日。本社ビルの応接間で、橘は瞳子の話を聞き終えるなり、険しい顔をして片手を額に置くと、うつむいた。

「……こういった場合、双方から事情を聞くのが筋なんだろうけど……」

大きく息をついたあと、ハッとしたように瞳子に目を向ける。

「その……月島さん、どこか怪我をしてたりは……」
「いえ、それは、大丈夫です」
「そうか、不幸中の幸い……いや、失言だな。社を代表して謝罪させてくれ───この通りだ、申し訳ない」

固く握った拳をひざに、橘が深々と瞳子に頭を下げる。あわてて瞳子は声をかけた。

「やめてください、橘さんが悪いわけじゃないんだし」
「そんな下劣な男を雇い、店長に据えてるのは我々経営陣だ。……見る目がなかったというのは、言い訳にしかならないだろう」
「でも、一応、未遂ですし、あと、窓ガラスも割ってしまって」
「ああ、むしろ、それで撃退できたなら、良かった。……そういうところは、月島さんらしいよね」

なんともいえない笑みを向けられ、瞳子はとまどって橘を見返した。

「俺が店長やってた時、理不尽なクレームつけたお客様に啖呵(たんか)切ってたもんな」
「ああ……あれは……若気の至りで……その節は、本当にご迷惑をおかけしました」
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