神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「ひとつ、俺からも言わせてもらっていいですか」

それまで、黙って瞳子と橘の話を聞いていたセキが、恐いほど真剣な目をして口をひらいた。
その眼差しに気圧されたように、もちろん、と、橘がうながす。

「先ほど彼女は、通常の勤務時間外で、断ろうと思えば断れたと自分にも否があったように言ってましたが、それは違うと思います。
上司(ひと)から頼りにされ、善意でその職責を全うしようとする者の思いを踏みにじり、裏切る行為は───万死に値する」

口調は静かだが、端々に怒りをにじませたセキが最後だけ低く強く言い放つと、橘はわずかに身を震わせた。

「……と、俺は考えますが、彼女の意思を尊重して、先ほどの彼女の要望を文書にして誓約してもらえますか?」

言って、セキは微笑みを浮かべてみせる。その笑顔を怖いと感じたのは、瞳子だけではあるまい。

「それは、もちろん。退職手続きの書類と共に郵送させてもらいます。
……それでいいかな? 月島さん」
「はい。よろしくお願いします」

───そうして、職場での『けじめ』が着いたと、瞳子がホッとした次の瞬間。
橘が、思いも寄らぬことを言いだした。
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