神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
《六》悲しいは、愛しい
《六》
四十がらみの橘の瞳子に対する態度は、彼女の上役としてというよりは、人として信頼できる気がした。
瞳子の『けじめ』のひとつがこれで着く───と、セキも……おそらく瞳子自身も思っていたはずだ。
しかし──。
「……アンタにも、付き合ってもらっていい?」
「ああ、瞳子のほうで、オレがいても構わないなら」
「……うん。ありがと」
その会話ののち、瞳子は運転に集中しているのか、それとも先程の橘との会話を思い返しているのか───後者である可能性は高い───ほぼ無言で車を走らせている。
目的地は、樋村という男が眠る墓地。
きちんと聞いた訳ではないが、会話から察するに、樋村というのは、瞳子のかつての恋仲……『元カレ』というやつだろう。
そして、二人の間には何やら行き違いがあり、それは意図的に樋村自身が仕組んだことのように思えた。
瞳子はその事実に、衝撃を受けていた。
(大丈夫かなんて、気休めの言葉はかけられない)
大丈夫でないことは確かだろう。
そして、セキ自身、どこまで踏み込んで瞳子に尋ねていいのかも迷っていた。
(何より、瞳子本人も困惑しているのが一目瞭然だったからな)