神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
(だがそれは───(はた)からみれば、身勝手で(てい)のいい欺瞞(ぎまん)だ)

偽りを告げられ、その真実が明るみに出た時。それが、自分を想っての自己犠牲だったのだと知れた時。
その想いを向けられた当人はどう思うだろう? ……到底、素直に喜べるとは、思えなかった。

(瞳子も……きっといま、複雑な想いをかかえているだろうな)

自分のためを想っての嘘。それだけ相手が自分を想ってくれていたのだと知ったいま、瞳子の胸の内にある彼への想いは───。

「ごめん、お待たせ。……お腹、空いてない?」

戻ってきた瞳子の問いかけに思考を中断し、セキは首を振った。

「いや、大丈夫だ。もともと食事の回数がこちらと“陽ノ元”では違うからな」
「そっか。じゃあ……先に樋村のお墓参り行かせてもらうね」

ああ、と、セキはうなずきながら、瞳子の様子を窺う。

気のせいでなければ、車から降りて行った時よりも、落ち着いた表情だ。瞳子のなかで、多少は樋村とのことが消化できつつあるのかもしれない。

(……と、オレが思いたいだけかもな……)

胸の片隅で、()れたような鈍い痛みがあるのを自覚しつつ、セキは車窓の外を流れる景色に目をやった。



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