神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
ふがいないことは百も承知だ。話したいと思えない相手から話を訊くのは気が引ける。それが、人が内に秘めておきたい想いならなおさらだ。

(だが───瞳子のほうから、話してくれるのなら)

「ああ、構わない。入ってくれ」

それがどんな内容であろうとも、聞きたいと思った。聞いたことを後悔するような内容であっても、それで、彼女の心に寄り添えるのなら。

セキの了承を受けてホッとしたように、瞳子は室内に入り、セキと向き合うようにして正座をする。

(……なんだか、いつか見た光景だな)

あの時とは違う、嫌な胸騒ぎに似た鼓動が、セキの全身を支配していた。

今日知った事実(こと)で、瞳子の気持ちに変化が訪れたとしたら───。
自分と共に在ると言ってくれたその心に、迷いが生じてしまうことも、ありえなくはないだろう。

(いや、瞳子はそんな薄情な人間じゃ)
「セキからしたら、薄情に思えるかもしれないけど」

セキが心の内で否定したと同時、瞳子の口から出た単語に、思わず彼女を凝視してしまう。その面に浮かぶのは、罪悪感をかかえた者の憂い。

「私、樋村が死んでしまって悲しいとかって、ないの」
「ああ、それは……まだ実感がないからだろう」
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