神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
驚いたようにセキを見返した瞳子が、泣きそうな笑みを浮かべた。
「アンタが、そんなだから……私、気づいちゃったのよ、樋村に恋愛感情なかったんだなって」
「え……?」
まっすぐに向けられた黒い瞳が、セキを映しだし、うるんで、輝く。
「その……アンタと、実緖さんが夫婦だったって知った時……私、知らされてなかった事実に対する怒りよりも、悲しくて……苦しかった。
あの時は見ない振りしてたけど、いまなら解る。アンタのこと好きだったから、悲しかったの」
セキが重ねた手のひらを、瞳子は逆手に持ち替え、その細い指先で自らの頬へと導く。押さえつけられるようにして触れた頬の下、瞳子の紅唇が放つ声。
「悲しいは、愛しいと同じって……解るでしょ?」
セキは、のどの奥でわずかに呻く。
瞳子がこの部屋に現れた時とは違う覚悟が、己を試していた。
「だから……私、樋村にあるのは、酷い言葉投げつけたっていうことに対する、罪悪感だけなの。
……ね、薄情な女でしょ? 幻滅した?」
「……勘弁してくれ……」
かすれて吐きだしたつぶやきは、瞳子への愛しさからあふれる欲望を、かろうじて制御している己の苦悩だった。
「アンタが、そんなだから……私、気づいちゃったのよ、樋村に恋愛感情なかったんだなって」
「え……?」
まっすぐに向けられた黒い瞳が、セキを映しだし、うるんで、輝く。
「その……アンタと、実緖さんが夫婦だったって知った時……私、知らされてなかった事実に対する怒りよりも、悲しくて……苦しかった。
あの時は見ない振りしてたけど、いまなら解る。アンタのこと好きだったから、悲しかったの」
セキが重ねた手のひらを、瞳子は逆手に持ち替え、その細い指先で自らの頬へと導く。押さえつけられるようにして触れた頬の下、瞳子の紅唇が放つ声。
「悲しいは、愛しいと同じって……解るでしょ?」
セキは、のどの奥でわずかに呻く。
瞳子がこの部屋に現れた時とは違う覚悟が、己を試していた。
「だから……私、樋村にあるのは、酷い言葉投げつけたっていうことに対する、罪悪感だけなの。
……ね、薄情な女でしょ? 幻滅した?」
「……勘弁してくれ……」
かすれて吐きだしたつぶやきは、瞳子への愛しさからあふれる欲望を、かろうじて制御している己の苦悩だった。