神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
そんなセキの努力むなしく、肝心の瞳子は見当違いな方向でとまどってみせる。
あわてた素振りでセキの手を離した。

「え? ……ごめん、そんなにイヤな話しちゃった?
あ、でも、そうよね……こんな話されてもアンタにしたら困るだけか。
だけど、セキが私と樋村のこと変に誤解してもイヤだったし、それ以上に樋村とのこと思い返していたら、私、こんなにセキが好きなんだって、改めて自覚して。
それに、樋村の死も、もし一人で聞いてたら……セキと出逢ってなかったら、また違う感じ方したかもって。
だから、私、アンタに出逢えて、本当に良かっ」

一生懸命に言い募る瞳子には悪いが、セキにはその言葉のすべてが全部、愛しいと同義語に聞こえて。
抑えこんで、抑えこもうと努力した理性の(たが)は、恐ろしいほどに強烈な瞳子の愛の言霊(ことだま)に、もろくも吹き飛ばされた。

「……っ、セ、キ……」

否やを問うこともなく、強引に奪った唇に、ささやく。

「……瞳子。今度は、オレが語る番だと思うが……」

互いに見交わす瞳の奥。焦がれる想いと、(たけ)る衝動の先にあるもの。

「オレは──言葉だけでなく、この身に宿る想いもすべて、瞳子の心と、身体に、伝えたい。……いいか?」
「……うん、私も……」
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