神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

《七》名が表す本質


      《七》

明け方。白む室内に、穏やかな寝息が響いていた。

(ん……ちょっと、首が痛い……)

ずっと同じ姿勢で寝ていたせいか、枕が枕の役を為さなかったせいか。
瞳子は、浅い眠りのまま目覚め、自らを包みこむ腕の中から起き上がる。

無防備な寝顔すぎて、とても狼の“神獣”の“化身”とは思えない青年を見下ろす。
赤茶色の癖髪は千千に乱れ、わずかに開いた唇からは規則正しい息遣いがもれ聞こえた。

少し肌寒く感じるのは、先程まであったぬくもりのためだろう。それが、なんだか急に惜しくなって、瞳子はもう一度、その腕の中へと戻った。

(ってか、コイツすごい爆睡じゃない?)

こんなに無理やり腕を上げ下げしても、起きないものなのだろうか。

「セ……」

呼びかけて、口ごもる。ゆうべ、本人に乞われた時以外、意識してはっきりと声に出して呼んではいなかった。

(慣れるまで、ちょっと時間かかるかも)

あとは、ほんのわずかだが、照れくささもある。
彼の名が【呼べる】ということは、【そういうこと】があったと宣言しているようなものだ。

(全国? の赤い“花嫁”さんは、みんな恥ずかしくなかったのかな……)

咲耶から聞いたところでは、“神獣”に真名(なまえ)を伝える『試練』は、司る“役割”によって違うらしい。
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