神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

《八》獣である本性をさらす幸い


      《八》

手もとにある掃除機のスイッチを切り、双真はふう、と息をついた。
開け放った障子戸の向こう、広がる青空の下、瞳子が干してくれたシーツが風にあおられ、はためいていた。

(これで終わり、だな)

約ひと月ものあいだ滞在させてもらった白河邸。最初はとまどうことも多かったが、いまはもう、この世界を去るのが惜しいと思うほどには、慣れ親しんでいた。

双真がそう感じられることに一役買ってくれた一葉(いちよう)とは、昨日、別れのあいさつを済ませた。

「もっと長居されるんじゃないかと心配しましたが、良かったです」

と、皮肉げな笑みで瞳子とのことを暗に揶揄(やゆ)されたが、彼流の祝福と受け止めている。

一葉に書いてみせた瞳子の『けじめリスト』もすべて決着が付き、唯一リストに載らなかった『グレーにゃん』との別れも、先日のアパートの片付けの際、無事終えられたようだ。

「たぶん、グレーにゃんも最後だって解ってたと思う」

猫まっしぐらな液状おやつを片手にしていたとはいえ、それまでなでようとするとスルリと身を(かわ)されたと言っていたから……おそらく、瞳子の言うとおり【彼】も『解っていた』のだろう。

「私のほうはシーツ取り込んだら終わりだけど、そっちは?」
「オレも、いま終わったところだ」
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