神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
(まさか───白狼殿か!)

“大神社”で行った会談は、瞳子の白狼への拒絶と彼女の不調をもって強制的に終了させた。

あの時の白狼は、是とも否とも言わなかった。
瞳子の直前の言葉に打ちのめされたようにも見え、また、なんの反論もしないことを勝手に了承の意と捉えたのも、確か。

(こちらに都合よく解釈していた……)

その後も何も音沙汰のないこと。瞳子に付けられた白狼とのつながり───“(あかし)”を消し去ったことも、大きかった。

(あれで、白狼と瞳子の縁は断ち切れたものと)

双真ののどが、獣の(うな)り声を放つ。
───白狼が瞳子に向ける執着は、奪えていなかったということだ。

思った瞬間、双真の身は白狼の屋敷に駆け出しかけた───が。

(策もあても無く、行ってどうする?)

ガリ、と、獣の爪先が床板を()ぐ。
どのような手段で瞳子を奪い去ったかは知れないが、ひと一人、かき消すように居なくなったのだ。尋常な方法ではない。

(姿を現さず、瞳子だけ連れ去るとは……!)

何か、見落としがあったのかも知れない。
瞳子と白狼のあいだに、何か───。

「コタ、待たせた。
……偉いぞ。短気を起こさなかったようだな」

頭をひとなでされ、わしわしと首回りをもみほぐすようにつかまれた。
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