神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
短い言を保平が放ったと同時。ヒヤリとした感覚が足もとでし、人の手の感触に似たものが、瞳子のふくらはぎを伝った。

「やっ……!」

気色悪さに逃げようとした矢先、また同じ感覚に襲われる───無数の生気のない人の手が、下方の岩肌からこちらに向かい、伸ばされていた。

あまりの異様な光景に立ちすくむ瞳子の腕に、ひじから下だけの手が複数伸びてきて、ついには取り押さえられてしまう。
そこへ、保平が瞳子に近寄り、手にした竹筒の中身をぶちまけた。

香草(よもぎ)の匂いと共に、鼻の奥がつんとなる。液体なのは解ったが、ただの水でも無さそうだ。強制的に鼻と口から入り込んだそれは、舌にもしびれを引き起こした。

「……っ、なに、これ……!」
「首にあった“(あと)”が無くなっておるな。もはや白い“花嫁”ではないということか。
ならば、我が(はかりごと)も無意味……いや、むしろ好都合なのか……?」

むせながら、せめて口内にあるあやしげな液体を吐きだそうとする瞳子の前で、保平はブツブツと独り言をもらす。
ニヤリ、と、瞳子に向かって笑ってみせた。

「───ここに、何と書いてあるか、読んでみせよ」

ハッとして、瞳子は保平を見返した。
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