神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
まさに、売り言葉に買い言葉だ。
状況を考えれば、あのおそろしい入道の化け物を追い払ってくれたのだと判る。

しかし瞳子には、素直になれない理由があった。

(男なんて……みんな、どうせ同じでしょ)

酒、金、女。
その三つのどれか、下手をすれば全部を手に入れようとする生き物だろう。

少なくとも、瞳子の周りにいた男共は、皆、そうだった。

自己嫌悪の最中、小馬鹿にしたような黒髪の男の物言いに、感謝を告げる気すら起きなくなったのだ。

だが───道理に欠ける発言をしてしまったのも確か。

居心地の悪さから男達をにらむしかない瞳子に対し、赤茶髪の男が噴きだした。

「何よ?」

不愉快さを全面にだしたにも関わらず、なぜか男は瞳子に破顔してみせた。

「勝手なことをして悪かった。
俺の名は萩原(はぎはら)虎太郎(こたろう)尊征(たかゆき)
この辺りには探しものをしにやって来た。
お前は?」

(ナニその長い名前……)

覚えてやる気はさらさらないが、武将などは、幼名と元服後の名前とがあるような話を聞いたことがある。
おそらく、その類いのものだろう。

(しかも、さっきコッチの目つきの悪い男には「セキ様」とか言われてなかった?)
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