神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「……これであのモノを我の支配下における。ククッ……。
しかし、誰も思い浮かばぬのか……? “神獣”の真名(なまえ)を“花嫁”から聞けば、己の天下となろうに。何故(なにゆえ)わざわざ“花嫁”の口を“(まじない)”でふさごうとするのか、理解に苦しむ」

瞳子は、キッと保平をにらみつけた。
“花嫁”にしか【読めない文字】を読ませ、“神獣”の真名を知り支配しようなど、小悪党の考えそうなことだ。

「この下衆(げす)ッ。たとえ思いついたって、やって良いことと悪いことがあるでしょ! いい歳して、人として恥ずかしくないのっ?」

糾弾するこちらのほうが恥ずかしい、子供に説くような道理だ。
仮にも“神官”という地位に就く者が、そのような卑劣な手段を取るなど、民に……人心に対する裏切りだろう。

「これは異なことを申す。そなたのような下賤な“花嫁”どもがいくら“神獣”をてなずけようと、この世は変わらぬ。我のような高尚な者こそが手にしてこそ良き力として世を変えるというもの。
まずは、先日(うしな)ったこの左手を『再生』してもらわねば」

小躍りするような足取りでもって、保平が岩屋の出口へと向かう。チラリと、瞳子をさげすむように振り返った。

「ふむ……まだ、死なぬのか。“禁忌”とやらはいつ働くのだろうな?」
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