神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
似た面影を最後に目にするより、本物を胸にいだいて()きたかった。

「セ……っ、双真っ……、ごめん……!」

末永く、よろしくと約束したのに。あんなに彼は、瞳子との約束を守ってくれようとしたのに。

(こんなの嫌っ。まだまだ一緒にいたい……!)

こみ上げる、嗚咽(おえつ)。震える手指を握りしめ、それでもどこかで奇跡を願った。そんな自分の生への渇望を、あざわらう。

(なんて、情けない終わりなんだろう……)

あきらめきれない、その想い。瞳子が心に思い浮かべるのは、ただひとつの存在。

「やっと、呼んでくれたな」

冷えた身体をあたためてくれるような、優しい口調───その声音。反射的にひらいた目の端を緋色の衣がかすめる。自分の身が、誰かにかばわれたのが解った。

「瞳子」
「……っ、双真っ?」

今度こそと、見上げた先にあるこげ茶色の瞳。愛しさがこぼれぬばかりに注がれる、眼差し。
ただそれだけで、死んだように()てついた全身が溶けて、生き返っていく心地となる。

瞳子は、状況も忘れ、目の前の愛しい“神獣”へとすがりつく。

「これを訊くのは気が引けるが……無事か?」
「……無事じゃないわよっ」
「だろうな、すまない。……どこか、痛いところがあるか?」

苦笑いで瞳子に応じた双真の手指が、肩口から二の腕をすべり、確かめるように触れた。
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