神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
あたたかなぬくもりに泣きそうになりながらも、瞳子は、近づいた人好きのする顔へと唇を寄せる。
「……いま、治った」
音を立てて奪い去った唇から離れ、吐息まじりに言ってやると、驚いたように見返してきた双真の目が細められた。
「それは、良かった」
双真の腕にやんわりとつつみこまれ、ようやく安堵の息をついた瞳子の耳に、同じ声色の無情な要求が響く。
「───その者は口にしてはならぬ神の名を口にした。こちらへ渡せ」
瞳子を抱いたまま力をゆるめることもなく、双真が男を振り返った。わずかに身じろいだことに、腕の中、瞳子も彼の動揺を知る。
「お前……まさか」
「早くしろ。二度は言わぬ」
鏡を見るような相手に双真は何かを言いかけたが、相対する男は少しのとまどいも見せず、こちらに手を差し伸べた。
「────……断る」
ややかすれた声音ではあったが、決然と双真が応じる。
拒絶と同時、隠すように囲われたため、瞳子からは見えぬ相手が言った。
「神の真の名を当の“神獣”が知る前に『聞く』者があってはならぬ。聞きし者には、死、あるのみ。
いたずらに死人を増やしたくなくば、その者の『口』を封じろ」
男の言葉が途絶えると、やがて、双真の腕から力が抜けた。ふいに、顔をのぞきこまれる。
「瞳子。……疲れただろう? 屋敷に戻ろう」
「……いま、治った」
音を立てて奪い去った唇から離れ、吐息まじりに言ってやると、驚いたように見返してきた双真の目が細められた。
「それは、良かった」
双真の腕にやんわりとつつみこまれ、ようやく安堵の息をついた瞳子の耳に、同じ声色の無情な要求が響く。
「───その者は口にしてはならぬ神の名を口にした。こちらへ渡せ」
瞳子を抱いたまま力をゆるめることもなく、双真が男を振り返った。わずかに身じろいだことに、腕の中、瞳子も彼の動揺を知る。
「お前……まさか」
「早くしろ。二度は言わぬ」
鏡を見るような相手に双真は何かを言いかけたが、相対する男は少しのとまどいも見せず、こちらに手を差し伸べた。
「────……断る」
ややかすれた声音ではあったが、決然と双真が応じる。
拒絶と同時、隠すように囲われたため、瞳子からは見えぬ相手が言った。
「神の真の名を当の“神獣”が知る前に『聞く』者があってはならぬ。聞きし者には、死、あるのみ。
いたずらに死人を増やしたくなくば、その者の『口』を封じろ」
男の言葉が途絶えると、やがて、双真の腕から力が抜けた。ふいに、顔をのぞきこまれる。
「瞳子。……疲れただろう? 屋敷に戻ろう」