神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
イチをたしなめるつもりが、どうやら逆に痛いところを突かれたらしい。瞳子に対してはあまり見せない反応がおかしくて、思わず笑ってしまう。
気のせいか、そんな瞳子にホッとしたような雰囲気が広がった。

「───桔梗、瞳子に湯を頼む」
「心得てございます。さ、瞳子さま、参りましょう」
「うん、ありがと」
「あたチも、一緒(いっちょ)ちまチュ!」

くすぐったい思いで微笑み返しながら、しみじみと瞳子は感じ入る。

(ああ、ホントに、今日からここが『私の家』なんだ)

瞳子の新たな居場所であり、(つい)住処(すみか)となる“陽ノ元”の屋敷に、ようやく帰って来たのだ───。



桔梗の計らいで有り難く風呂に浸かり、夜着の上に(うちぎ)を羽織って双真の部屋に行くと、イチと双真が何やら話しこんでいた。

「ああ、瞳子」

火鉢の置かれた室内は暖かく、双真に手招きされ隣に腰を下ろせば、スルリと髪をなでられる。

(あ、髪、乾かしてくれたんだ)

ありがと、と、礼を告げる瞳子に、いや、と、事もなげに応じる双真。イチが、咳払いをした。

「……言っときますけど、それ、口実ですからね?」
「イチ!」
「そんな、いちいち手で触れなきゃ『力』が使えない神なんて下の下ですよ。ようは貴女を可愛がりたいだけのアレです。
ま、セキ様に限らず、どこの“神獣”様もあれこれと“花嫁”の為〜とかいう(てい)で、触りまくってますけどね」
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