神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
瞳子は、虎太郎とイチが、驚きとも戸惑いともつかない反応をしていたことを思いだす。

「あの。虎太郎達とは、どういう関係なんですか?」

湯船に浸かったまま、尋ねる。
ふっ……と、戸の向こう側で笑う気配がした。

「そうですね……昔馴染(なじみ)、が、妥当でしょうか」
「……そうですか」

古い知り合いという無難な回答。瞳子も、それ以上は深く追求しなかった。

(別に、興味もないしね)

自分に害が及ばないのであれば、どうでもいい。
瞳子はわずかに湧き上がった、自らの胸の内にあるモヤモヤを追いやった。

のぼせる前に湯から上がると、脱衣所で待ち構えた桔梗に着替えを手伝われた。
少し気恥ずかしかったが、慣れない夜着を身に付けるのは不安だったので、素直に甘えることにした。

「こちらの衣は、瞳子さまのご趣味に合いますか?」

浴衣のような薄手の白い布地の上に重ねられたのは、緋色の衣。
銀色の刺しゅうが描くのは、蔦葛(つたかずら)の模様。

「柄ですか?」
「いえ、意匠のことでございます。
夜着はともかく、日中に着られる衣の(そで)(すそ)の長さ、(はかま)の形などのご要望をお聞かせ願えたらと。
柄───“神紋(じんもん)”は、“神獣”様固有のものなので、変えられないのですが」
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