神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜

《四》口にだせない過去


       《四》

『ふぇあ』とは何だ? と、虎太郎は思わなくはなかったが。

(……いや、心苦しいと感じているのは確かなんだろうな)

やはり、虎太郎が考えていた以上に、瞳子は人に頼ることが苦手なのかもしれない。

だが、だからこそ、瞳子の力になってやりたいと思った気もする───いまはほとんど己のなかに無いはずの、“神獣”としての感覚で。

「だからって、オレの(まこと)の名を呼べるようにするってのは、ダメだろ……」

そう、虎太郎───赤い“神獣”の真名(なまえ)が呼べるようになることは、良い事ではない。

(呼べなくて、いいんだ。少なくとも瞳子にとっては)

「ハァ? 教えてやればいいじゃんかー。
赤い“神獣”の真名は、他の“神獣”の真名よりも、伝える方法は簡単ダヨ〜って」

片腕で頭を抱え溜息をつく虎太郎の耳に、寝所に消えたはずの従者の声が届く。

「……イチ……!」
「お兄ちゃん心配で盗み聞きしてた〜、ゴメンね?」
「……あのな」

素面(しらふ)の時からは想像もつかないほどの可愛らしい仕草で、小首を傾げてみせるイチ。
虎太郎は、あきれて二の句が継げなくなる。
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