神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
それとは別に……と言って、桔梗は自らの(たもと)に手を入れると、そこから折りたたまれた書簡を取り出した。宛名を見れば、兄上様、とある。

「じーさんじゃなくて虎次郎(こじろう)───尊仁(たかひと)の遣いか」
実緒(みお)様からも、お言付けがございますよ。納得のいく説明を、と」
「……離縁状は渡したはずだがな」
「突然のことに、お二方とも感情が追いつかないのでは。それは、若も同じでしょう?」

聞き慣れた呼びかけを、今度は否定しなかった。いや、できなかったのだと虎太郎は気づく。

(ケジメが必要ということか。俺も、あいつらも)

萩原家の正統な剣の継承者のみが扱えるとされる“神逐(かむや)らいの(つるぎ)”。それを手にしたまま家を出てしまったのは、虎太郎の甘えと落ち度だ。
断ち切れぬ想いを、断たねばなるまい。

(とはいえ、瞳子との約束を反故にもできないしな)

関係のない瞳子を自分の問題に巻き込むのは気が引けるが、それもこれも身から出た(さび)だ。

「ま、トーコ連れて行ったほうが、話は早いかもね〜」

虎太郎の内心を見透かしたように、用意された水を飲み干したイチが、意味ありげに笑う。
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