神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
(絶対に、人間(ひと)じゃない)

人間を模してはいるが、成りそこねているもののように瞳子には感じられた。

『かむやらい、やらいたもうた。われはなく、われをつかうモノだけが、このよにあるといふ』
「なに、言ってんの……?」
『我が名を知るは、我と契ると同義だが、構わぬか』

先程とは違い、面倒事を提案されたと理解ができた瞳子は、それを即座にはねのける。

「なら、結構。それより、この手を離して!」
『……気の強い(をみな)だ。だが、気に入った』

すっ……と、離れていく輪郭の薄い手が、瞳子の後頭部に伸ばされた、直後。

『……あれとは違い、弱い契りだが、護りにはなる。誉れと思え』

瞳子の目じりに触れた薄い唇が、ゆるい弧を描く。
瞳子は、目を見ひらき、唇をわななかせた。

「な、な、なっ……何してくれてんのよっ……!」

怒鳴りつけた先、宵闇に溶け込むように消え失せた人外のモノの替わりに。
眠りにつく前、枕元に置いたはずの“神逐(かむや)らいの(つるぎ)”が、そこにはあった。



「ちょっと! 話があるんだけど!」

朝餉(あさげ)をご用意してございます、と。桔梗(ききょう)の案内で通された一室で、瞳子は仁王立ちをした。
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