神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
壱 かりそめの花嫁

《一》僕の花嫁として喚ばれたのだから

       《一》

果たして、瞳子(とうこ)の願いが届いたのか。

(あれ……? 痛く、ない……?)

自分の身体を受け止める、冷たく硬い感触が真下にあった。

おもむろに目を開ければ、そこは、月の光が斜めに差し込む蒼い空間。
瞳子は、板の間にうつ伏せに倒れていた。

(ここ、どこ!?)

ガバッと身を起こし、周囲を確認しようとした瞳子の目に入ったのは。

「ようこそ。“上総(かずさ)ノ国(のくに)”へ」

人とは思えないほど完璧な顔の造作をした、銀色の長い髪の男、だった。
死に装束を思わせる真っ白な着物を身にまとい、瞳子の前に端座している。

「…………誰?」

しばらくその顔を感慨なく見やったのち、そう()いてはみたものの、すぐにいろんな疑問が一斉に込み上げてしまう。

「や、そんなことより、ここどこ!? ってか、何? なんで私、こんな所にいるの?
夢? 夢見てる? だって、どこも痛くな───」

言いかけた瞳子の唇に、すっ……と、小さな紙片が押しつけられた。
濡れた感触と共に、花の匂いのような香りが鼻腔(びこう)をくすぐる。

「少し、黙っててくださいね」
(は? 何よ、この男───)

ムッとしながら、瞳子は男の手を振り払う。
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