神獣の花嫁〜あまつ神に背く〜
「……瞳子が同じ理由で名付けたのなら、それがいい」

虎太郎の掛け値なしの肯定を受けてか、瞳子は照れくさそうに、自らの横髪をかきあげながらうつむく。

(ああ、本当に)
「瞳子は可愛いなぁ……」

意図せずにこぼれた心の声に、ぎょっとしたように瞳子がこちらを見て顔を赤らめるのとほぼ同時、イチが眉をつりあげる。

「なんですか、その腑抜けた顔! 孫バカ(じじい)ですか?」

まったく……と、ブツブツと文句を垂れ流しつつも、イチはハツカネズミの『ふう』のため、儀式をつつがなく終えた。

「あとは……当代の“国司(こくし)穂高(ほだか)氏への根回しと、白い“神獣”様への取り次ぎ……ま、最初は【()の方々】へ話を通しに行ったほうが、無難ですかねぇ」

虎太郎や瞳子に言って聞かせるというよりは、厄介事を口にすることによって、自身の気持ちの整理をつけているらしい。

それと、と。思いだしたようにイチが二人を見た。

「このネズミ───ふうは、私が一緒に連れて行きますよ。このままじゃ、足手まといのお飾り“眷属”ですからね」
「あた、あたチはトーコしゃんといっちょにいたいれチュ〜」
「……早速私に口答えとは、いい度胸ですね」
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