混沌


青年がキーホルダーを教室の上に置いといてくれる可能性に縋り教室に戻って来たのだが、私はドアの前にたたずむ青年の姿を見て驚いた。

「やっと来たか」

うそ、もしかして、ずっと待ってた?

青年は私めがけてスタスタと歩いてきた。

何と言えばいいのか、口籠る私に青年はキーホルダーを差し出した。

「俺は鞄から落ちるところを確実に見ていた。君のだろう?」

「……すみません」

私は渋々と彼の手からキーホルダーを受け取ろうと手を伸ばした。

しかし、すんでのところで青年の手は閉じられる。

え、

私が見上げると青年は聞いた。

至近距離で見る瞳は、やはりキラキラとしていて、私はその輝きに溺れないように目を逸らすので精一杯だった。

「なぜ謝る?」

「……嘘をついたから」

「なぜ、嘘をついた」

「なぜって、それは」

何これ、尋問?? 

私は早くキーホルダーを取り戻してこの場から立ち去りたかった。これ以上こうしていたら彼の美にあてられて気がふれそうだ。

「答える必要ありますか」

「あぁ、俺はここで30分も君のことを待ったからな」

別に頼んでないんですけど、私はその言葉をぐっと飲み込んだ。
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