私はもうあなたの婚約者ではないのですが???今日も何故かプロポーズされます。
『じゃーん、到着!』

『…なぁに?ここ…』

『ここはね、僕のとっておきの場所なんだ』

大人たちが集まっている場所からは少し離れた静かでちょっと暗いところ。
目の前にはとても大きなカーテン。子どもの私が台を使っても上まで届かない大きなものだった。
このカーテンの裏に何があるのだろう。

『こっちに来てみてよ』

そういって男の子はカーテンの中に消えてしまった。

『え、ま、待ってよう』

私は慌ててカーテンをくぐり、その子のもとへ向かった。

カーテンをくぐった時、花の香りがふわっと風に乗って私のところへ来た。
月の明かりが目の前の池に映ってゆらゆらしていて綺麗だった。
どこかの本の中に出てきそうな素敵な場所だと思った。

『すごい…』

『バルコニーっていうんだ。いくつかあるけど、ここがお庭が一番きれいに見えるよ。そして、ここ!かくれんぼで見つかりにくい場所なんだよね』

そういって、バルコニーのドアの裏を指さした。
ドアが外側に開くので確かにかくれんぼでは見つかりにくそうだ。

『…だからお気に入りの場所なの?綺麗だからとかじゃなくて?』

『え?本当に見つかりにくい最強の場所なんだけどな…』

『ここ、もしかしてあなたのお家なの?』

『うん。しらなかったの?』

誰かの家だとは思っていたけど、この子の家だとは知らなかった。
私の家はマンションだから、大きさが全然違う。
こんな素敵なお庭まであるなんて羨ましいと思った。

『そうだ!今度遊びにおいでよ。その時かくれんぼしよう!』

『…かくれんぼするなら最強の場所教えない方がよかったんじゃないの?』

『…そうかも。うーん、じゃあ…そうだ!パパやママをびっくりさせてやろうよ!』

『え?』

その子は私の手をつかみドアの後ろまで私を引っ張った。
そして私をしゃがませると隣に座り込み、しーっと指を口に当てて言った。

『かくれんぼ、かくれんぼ!気づかれるまで静かにだよ』

『急に始めて心配されないかな…怒られちゃうかも』

『大丈夫!大丈夫!』

そういってくすくすと笑った。
私もなんだか楽しくなってきてくすくすと笑った。

私はポケットからハンカチを取り出してお尻の下に敷きその上に座った。

『そういえば僕たち婚約者なんだって』

『…うん。パパとママみたいにずっと一緒にいるって』

『大人になったら結婚するんだよ。僕たち』

『…結婚するの?』

『そうだよ。知らなかったの?』

結婚。結婚って沢山聞いたことあるけどよくわからない。
結婚するとパパとママみたいになってずっと一緒にいるの?

結婚するってどういうことなんだろう…。

『…そういえば、私、ありあっていうの。あなたは、名前なんて言うの?』

『…僕の名前はね…-』


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