腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
 ***


「遅えぞ」

 すると、岡先生と師長に呼ばれていた茶髪の男性が、こちらに向かってきた。それもかなり、悪態をついて。

「呼び出すからには誠意ってのを見せるのが筋なんじゃねぇのかよ。それにこっちもいきなりだと、抜け出すのが難しいことくらい、同じ外科医なら分かるだろうが」
「悪い悪い。急遽、こっちに来ることになったもんだから」
「ふーん。まぁ、あとでたっぷり埋め合わせしてもらうけどな」

 何だろう。この会話を聞いているだけで、怪しい雰囲気を感じる。私がそう思っているのなら、姉はどうだろうか。きっと面白くない、と思っているに違いない。

 ふと、見上げようとした瞬間、何かが来る気配がして真正面を向くと、岡先生の顔が急接近してきた。

「っ!」
「へぇ、これが例の」
「例の?」

 何?

 思わず鸚鵡返しをしてしまったが、岡先生は意にも介していなかった。

「アンタも、運が悪かったな」

 ただ、私にしか聞こえない小さな声で、そう言い放った。
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