腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
 ***


 案の定というべきか、姉は私を悪者に仕立てた。けれど、相手が岡先生であったため、思った以上の効果は得られなかったらしい。

「あの……」
「何だ?」

 芳口病院の庭で、ベンチに座る岡先生に声をかけた。私はというと、相変わらず車椅子の上。
 今日も今日とて、姉と湊さんのアリバイ作りのために、ここでのんびりと過ごしていた。

 また何時に帰ってくるのか分からなかったが、今日も長いのだろう。だからこそ、聞いてみたかった。

「岡先生の評判って、どのくらい悪いんですか?」
「っ! ……それを俺に聞くのか?」
「他に聞く相手がいないので」

 姉が流した噂により、私と世間話をしようとする看護師と医者がいないのだ。だから、噂の詳細も実は分かっていない。とはいえ、姉に聞くなんて……何の罰ゲーム?

 分かっているのは私を、入院したてなのに外科医を誑かした不埒な女、と言い触らしていること。
 そんな妹を持って苦労しているのだと、周りからの同情を買っているらしい、ということだった。

 まぁ、これは岡先生からの情報だから、信憑性は薄いけれど、姉は昔から、自分をよく見せるためなら、妹の私だって利用する質だ。だからあながち間違ってはいないだろう。

 因みに湊さんは論外だ。

「ごめんな。俺のせいで孤立させたみたいだ。だけど栞は、退院すれば奇異な目で見られることもないから、ほんの少しだけ我慢してくれ」
「奇異な目くらい大丈夫です。今の世の中、高校くらいは皆出るのに、中卒で入社したんですから。そんな視線くらい……なんてことはないですよ」

 最初は怪しまれて、事情を話すと同情。慣れてくると甘えている、と言われ。さらには「若いんだからもっと働け」と言われる始末。

 私のことよりも逆に、岡先生のことが心配だった。
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