腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~

第11話 退院

 それから二週間後。私は無事に退院することとなった。

 けれど完治したわけではない。未だに足は包帯で固定された状態。これからは完治するまでの間、定期的に芳口病院に通うことになったのだ。

 しかも自宅からではなく、岡先生の家から。車椅子ではなく、松葉杖で。

「まさか退院と同時に同棲なんてね。ビックリしたわ。でも琴美さんと二人だと何かと不便でしょう。その点、尚史くんとなら安心だわ」

 病院の出入り口で、私を見送りに来ていた園子夫人が、隣にいる岡先生に向かって言った。

「松葉杖で仕事へ行くのは大変でしょうからね」
「勿論、車で送迎しますよ、院長夫人」
「あとは日常生活もね。しっかりサポートしてあげて。お風呂とか一人で入るのも大変でしょうから」

 そ、園子夫人!?

 思わず松葉杖を落としそうになった。そのぐらつく体を岡先生が、逞しい腕で咄嗟に支えてくれる。

 岡先生は医者なのだから当然の行為なんだけど、恋人だと思うと恥ずかしさの方が募った。

「院長夫人。人が悪いですよ」
「ふふふっ。尚史くんほどではなくてよ」

 姉が盛大に私と岡先生の噂を流してくれたものだから、今や芳口病院で私たちの関係を知らない者はいない。だから、こうして年配の方から揶揄われ……。

「母さん、少しは大人しく見送ってあげられないのか?」

 湊さんのような中堅どころには呆れられ……傍にいる若い看護師さんたちには羨望の目で見られる羽目となった。

 ただ一人。姉を除いては……。
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