腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
 ***


 そうして私は、これから一緒に住むことになるマンションへ、岡先生と帰ってきた。

「お、お邪魔します」
「栞。ここは『ただいま』だろ?」

 手続きとリハビリも兼ねて、一時退院した際に訪れたことがあるだけに、岡先生は意味深に言う。
 いや、あながち間違いではないんだけど、これはこれで……ううん、少しだけ恥ずかしかった。けれど促されると嬉しくて堪らない。

「た、ただいま」
「お帰り」

 岡先生に言われて、改めて実感する。

 あぁ、今日から姉と離れてこの人と暮らすんだ、と。
 そう思ったら顔がニヤけてしまった。しかしそれは岡先生も同じだったらしい。

「これで一先ずは安心だな」
「ひと、まず?」
「……一ノ瀬姉から離れて、これでお終い、なわけがないだろう。まだ何も解決していないんだから。違うか?」

 岡先生の言葉に、私は落胆の色を隠せなかった。

 分かっている。ただ姉から離れただけで、通院していれば嫌でも顔を合わせることになるのだ。
 岡先生もいるのに、別の病院に変更することは、あまりにも不自然過ぎるし、何よりも園子夫人と約束してしまったから無理な話だった。

「しかも向こうは看護師だ。検査や診察だとか、適当なことで栞を呼び出すことは可能なんだ。それも本来の担当医である湊を使えば、さらに見分けがつかなくなる。ここにいれば、一ノ瀬姉は来られないが……」
「湊さんと一緒に来る可能性は……ありますもんね」
「栞は院長夫人のお気に入りだからな。名目はいくらでも作れる」

 園子夫人は良い事も悪い事も引き寄せてくるらしい。
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