腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
 ***


「用が済んだら、さっさと帰ってくれ」

 玄関が開いて間もなく、尚史さんの苛立った声が聞こえてきた。やっぱり、と思った私は壁伝いに玄関へと向かう。
 尚史さんが家にいない間も、松葉杖を使わずに歩けるように、リハビリをした成果である。

 私は気づかれないようにリビングの扉を開けた。

「それが届けに来た私にいう言葉?」
「はいはい。ご苦労さま。でもな、わざわざ持って来なくても、そのまま湊に頼んで病院のロッカーに置いてくれれば良かったんだよ。相変わらず回りくどいことをする女だな」
「何ですって! 妹の物を、姉である私が持って来ることのどこが回りくどいのよ!」

 物? 共同で使っていた物かな。
 でもここへ引っ越す時、もう戻ってこないつもりでいたから、今更持って来られても困る。

 だから二人の前に姿を見せた。

「「栞!」」

 案の定、尚史さんが駆け寄って来る。

「何で出てきた。この女から離れたかったんだろう。嫌な思いをしてまで出てくる必要はないんだ」
「尚史さん、それは違うよ。何を持ってきたのか知らないけれど、こうしてお姉ちゃんがやって来た以上、言わなきゃダメなの。何で私が家を出たのか、察せられないんだから」

 こればかりは他人の言葉など効かない。直接言って分かるのなら、そもそもここにも来ることもないだろうから。

 言わなければ、それは肯定と同じ。

 でもね、お姉ちゃん。私は散々言ってきたつもりだよ。

「いい加減、分かってよ。お姉ちゃんが大嫌いだってこと。これ以上、私の人生を目茶苦茶にしないで!」
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