腹黒外科医に唆された件~恋人(仮)のはずが迫られています~
 ***


 理由は簡単だ。
 一つ。現在の自分の状況である。

「いたたた」

 動く度に、全身に走る痛み。

「我慢なさい。全身打撲に、左足の骨折しているのよ。当分は車椅子生活ってとこね」

 無常にも言い放たれたが、姉の言葉が全てを物語っていた。けれど愚痴りたくなるのは許してほしい。
 私とて、好きで事故に遭ったわけでもない。勿論、轢かれたことも含めて。

「そんなの困るよ。車椅子だなんて、どうやって仕事に行くのよ」
「入院しているんだから、行けるわけがないでしょう?」
「そしたらお給料は? 入院代だってどれくらいになるのか……」

 中卒の安月給で賄えるの?

 すると姉は何がおかしいのか、クスクスと笑い出した。

「そこは心配しなくても大丈夫。私の彼が誰なのか、もう忘れたの?」
「覚えているよ。芳口院長夫妻の息子さんでしょう?」
「そして次期院長。私がお強請りすれば、どうにかしてくれるわ。運が良ければ全額チャラ」

 自信満々に可愛くウィンクをするが、私は逆に不安になった。

「お姉ちゃん……まさかとは思うけど、それが目的で近づいたの?」

 確かにウチは貧しい。人様に見せられないほどではないけれど、裕福な家から比べたら恥ずかしいレベルだった。
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