誘惑しないで、羽瀬くん。
ばくんって、心臓が跳ねた。
羽瀬くんは何度私を惑わせたら気が済むんだろう。
顔色ひとつ変えないくせに甘いことばっか言ってくるのは反則にも程がある。
「羽瀬くん女慣れしすぎ」
「してないよ」
「してるよ。ずっとドキドキさせてくるもん……」
普通は女の子相手に“可愛い”なんてそう簡単に言ったりしない。
だから、サラッと言ってしまう羽瀬くんは相当な手練れなんだと思う。
「俺だって、ずっとドキドキしてたよ」
「へ?」
羽瀬くんがぴたりと足を止めた。
私の手を引いて自身の胸元に押し当てたら「ほらね」と、耳元で囁かれた。