誘惑しないで、羽瀬くん。


突然の事態に思考が停止する。

羽瀬くん鼓動は雨音よりもずっと激しい音を立てていた。


「う、うそ……」

「嘘じゃないでしょ」

「っ……じゃあ、どうして?」

「当ててよ。正解だったら教えてあげる」


余裕たっぷりな表情でこちらを見る。


羽瀬くんの鼓動が速いのは事実なのに、焦ってるのはたぶん、きっと、私だけ。


………その聞き方、ずるい。


私の反応見て楽しんでることくらい知ってるんだよ。

どうせ何を言ったって、本当のことなんて教えてくれないと思う。


だからこそ、底しれぬ沼に溺れてみたくなった。


「私のこと───────」


“私のこと、どう思ってるの?”

そう口にしようとした矢先。


「あ、雨止んだ」


羽瀬くんの声であっけなく現実に引き戻された。

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