誘惑しないで、羽瀬くん。


羽瀬くんは傘、持ってるのかな。


もしもここで「傘持ってる?」と聞けたとして、「持ってないよ」って言われたら「一緒に入る?」って誘えるのかもしれない。

だけど、そんな度胸も勇気も持ち合わせていないわけで。


自分の情けなさに笑いながら教室を出た。


「入れてよ」


そして、またしても羽瀬くんの声で振り返る。

いつの間にか目の前に立っていたことに驚いて、思わず後ずさる。


”入れって”って、つまり───?



「傘。俺も入れて」

< 5 / 14 >

この作品をシェア

pagetop