誘惑しないで、羽瀬くん。
羽瀬くんは傘、持ってるのかな。
もしもここで「傘持ってる?」と聞けたとして、「持ってないよ」って言われたら「一緒に入る?」って誘えるのかもしれない。
だけど、そんな度胸も勇気も持ち合わせていないわけで。
自分の情けなさに笑いながら教室を出た。
「入れてよ」
そして、またしても羽瀬くんの声で振り返る。
いつの間にか目の前に立っていたことに驚いて、思わず後ずさる。
”入れって”って、つまり───?
「傘。俺も入れて」