誘惑しないで、羽瀬くん。







ぱしゃりと水たまりを踏んだ。

靴下にじわりと染みてちょっとだけ居心地が悪い。

けれど、そんな些細なことよりもバクバクと暴れ回る自分の鼓動の方が、よっぽど気になってしょうがなかった。


………羽瀬くんと相合傘。


心の中で呟いたら息が止まりそうになった。


だって、“あの”羽瀬くんと2人きりで帰る………とか、妄想の世界でもありえないって思うもん。


傘に入れてほしいと言われた後、なんて返事をしたのか覚えていない。

気がついたら同じ傘の下に羽瀬くんがいて、私はその隣を歩いていた。


時折肩が触れる度、口から心臓が飛び出てしまいそう。


とりあえず動揺してるのバレないように深呼吸を………。


「なんか喋ってよ。気まずいんだけど」

「ひぇっ!?」

< 6 / 14 >

この作品をシェア

pagetop