ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
藤棚の似合う御曹司
大事な仕事を控えた朝、祖父母の写真に向かって手を合わせるのは習慣だ。
ふたりが肩を寄せ合い微笑んでいる後ろには、小さな花屋の店舗が写っている。店先に出ている花は種類こそ少ないけれど、どれもしゃっきりと瑞々しく咲いていた。祖父母が大切に手入れをしていた証拠だ。
「見ててね……。美吉ブロッサムを必ず、全国規模の大きな花屋にしてみせる」
今はまだ、都内に数店舗しかない。それでも、先月は主要な私鉄駅のターミナルビルにテナントを出すことができた。
店舗ごと、季節ごとにテーマを決めている凝ったレイアウトはSNSで話題にのぼることも多い。着実に、会社が成長している実感がある。
「やばっ、もうこんな時間!」
腕時計を確認し、慌ててバッグを掴む。部屋を出る前に、ドアのそばの全身鏡で自分の姿をチェックした。
ねじってお団子にまとめてあるストレートロングの髪には乱れなし。グレージュのパンツスーツのプレスも、昨夜アイロンをかけたから綺麗。
これから出かけるイベントの主役は花だからとメイクは控えめにしたが、元々顔立ちが地味なので、ちょっぴり印象が薄くなってしまった。
ま、大事なのは見た目じゃなく中身よ中身……。
身だしなみのチェックが済むと、マンションを出る。
今日はいつも以上に頑張ろう。仕事の後には、とびきりのご褒美があるんだから。
『株式会社美吉ブロッサム』社長、美吉苑香。今日でちょうど三十歳。
毎日が充実していて、恋も仕事もうまくやれている自負があった。
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