ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

「美吉さん?」

 カンナに返信を打とうとしたその時、あろうことかにっくきあの男の声が背後から私を呼んだ。

 なんの用……? 先生との打ち合わせはもう終わったの?

 それに、私の名前をなぜ知っているんだろう。同業者とはいえ、瀬戸山園と違ってこっちはまだまだ無名なのに。

 軽く卑屈になりながら、後ろを振り返る。一八〇センチはゆうにある長身の彼を見上げると、整った顔に藤の花がよく似合っていて、そんなところにも無性に腹が立った。

「なんでしょうか」

 つい棘のある声が出てしまい、我ながら大人げないなと思う。

 カンナがそばにいたらうまく制御してくれたかもしれないけれど、あいにく彼女は休日だ。

「美吉苑香社長、ですよね。あなたと一度お話したかったんです」
「話……?」

 仕事のことだろうか。下の名前まで知られていたとは驚きだが、私が思うより美吉ブロッサムは業界内で注目されている……?

 なんとなく警戒心が緩んだところで、瀬戸山が藤棚の下の縁台に座るよう勧めてくる。

 江戸時代の団子屋の店先にあるような赤い布が敷かれた座面に腰を下ろすと、瀬戸山も少し間を空けて隣に座った。

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