ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

「きみが不安なのは、俺に惹かれているが故じゃないのか? 惹かれているのに前の男と別れた傷が癒えないままだから、新しい恋に踏み込むのを恐れてる」
「……っ。そんなこと……」

 ない、と言おうとして、口ごもる。

 瀬戸山の切実な眼差しと視線がぶつかってしまったから。

〝あなたの自惚れだ〟と言いきったら、彼を傷つけてしまうような気がして……。

「きみはさっき、俺に近づかれるのが迷惑だとは言わなかった。だから、きみの気持ちには隙があると思ってる。そこに俺を入り込ませてはくれないか?」
「どうしてそこまで……」
「理屈じゃない。俺の本能がきみを欲しがってるんだ」

 瀬戸山は熱っぽく掠れた声で囁くと、長い指先でそっと私の顎をすくう。

 理屈じゃなくて、本能……。なにも考えずにそんな衝動に身を任せるとしたら、私は……。

 長い睫毛を伏せた瀬戸山の顔が近づいてきて、キスの気配を察する。

 私は今までずっと固く握りしめていた理性を手放し、目を閉じた。

 やわらかな唇同士が重なった瞬間、胸が痛いくらいに締めつけられる。

「苑香……」

 愛おしそうに名前を呼ばれ、一度離れた唇がまたかぶさってくる。

 角度を変えて繰り返される甘い口づけに、頭の芯が蕩けそうになった。

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