ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「はい。……蘭子さん? どうしてこの番号を?」
盗み聞きをするつもりなんてなかったのに、耳がぴくっと反応した。
『蘭子さん』って……もしかして九条百貨店の?
「縁談については、父にお断りする旨をお伝えしてあるはずですが」
統の声は淡々としているが、胸がざわっと波立った。
もしかして、政略結婚の件ってまだきちんと片付いてないんじゃ……。
「そうでしたか。生憎、僕には心に決めた女性がいます。お会いしても意味はないかと」
スマホを耳にあてたまま、統がこちらを振り返った。
心に決めた女性……それって、私のこと? 会話の全容はわからないものの、どきりとする。
ついさっきまであんなに激しいキスを交わしていた反面、私たちの関係に確かな名前がついたわけではないので不安もあった。
そんな私の胸中を知ってか知らずか、彼は通話を続けたままソファの方へ戻って来た。私の隣に腰を下ろし、空いている方の手でポンポンと頭を撫でる。
安心させようとしてくれてる……?
「九条百貨店との取引が打ち切られれば損失はありますが、だからといって結婚の交換条件にはなりません。どうかご理解ください。繰り返しになりますが、僕はあなたと結婚するつもりはありませんので。……では、失礼します」