ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
話している間中ずっと、統は私の目を見ていた。電話の向こうにいる蘭子さんだけでなく、私への意思表示も兼ねているかのように。
通話を終えた彼は、やっと終わったと言いたげにため息をつき、スマホを目の前のローテーブルに放った。
「なんとなく聞こえたと思うが、蘭子さんからだった。縁談を断ることは父から向こうの家に伝えてくれる予定だったのに、まだ知らされてなかったらしい。蘭子さん本人もなぜか俺との結婚に執着してるみたいで、連絡先を無理やり親御さんに聞いたそうだ。もちろん改めて断ったけどな」
統はそう言うと、肩の力を抜いてソファの背もたれに深く寄りかかる。
「でも、本当に大丈夫なの……? 九条百貨店との取引がなくなっても」
「前にも言っただろ。現在の瀬戸山園で主力事業に据えているのは、小売業じゃない。取引を打ち切られた場合少しも痛手がないとは言わないが、大金を動かす造園業や空間プロデュースの仕事で、いくらでも挽回できる。苑香はなにも心配しなくていい」
安心させるような笑みを向けてくれる統だけれど、そう簡単には納得できなかった。
俯いたまま無言でいると、統が「そうだ」と言ってソファから腰を上げる。