ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「ちょっとついてきて」
「うん……」
統の目的がよくわからないものの、彼の後に続いて廊下に出る。並んだ扉の内のひとつに入った彼を追って足を踏み入れた部屋は寝室のようだった。
明るい印象だったリビングダイニングに比べ、同じ木製家具でも色の暗いものが多く並んだこの部屋は、しっとりと落ち着いた大人の印象だ。
壁際に置かれた広いベッドが起き抜けの雰囲気のまま乱れていて、少しドキッとする。
「苑香」
ベッドに気を取られていたら、デスクの上に置かれた小さな収納ボックスを開けていた彼が、私を手招きする。
「これ、きみに持っていてほしい」
手を出すように促され、両手をお皿のようにして差し出すと、小さなディンプルキーをポンと渡された。
「えっ? これって……」
「この部屋の合鍵。いつでも好きな時に来ていいから」
本物の恋人みたいなやり取りに、トクンと胸が鳴る。
恋なんてするつもりはないと何度も自分に言い聞かせているのに、始まりの甘い予感が勝手に私の胸をつついて心をこじ開けようとする。