ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~

 早口で思いの丈をぶつけ、手の中の鍵を再度彼の方へ突き出す。統はしばらく黙って私の顔を見つめていたけれど、やがて鍵を受け取った。

「きみが前回の失恋で負った傷は思ったより深いみたいだな。でも、どんなに時間をかけてでも俺はきみをあきらめなーー」
「ゆ、指輪も返すから! バッグ、あっちの部屋に置きっぱなしだから取ってくるね」

 本当は激しく動揺していたけれど、そんな自分をごまかすように踵を返す。

 しかし、逃さないと言うかのように、彼の手がぐっと私の手首を掴んだ。

「苑香、話を聞いてくれ。俺の気持ちは、矢代先生の内覧会できみと会ったあの日よりもずっと前から決まっていた」

 もうやめて、と思った。

 これ以上は聞きたくない。心を乱されるのはこりごりなの。

「失恋したあの日に助けてもらったことは感謝してる。今日のデートも楽しかった。でもやっぱり、私はもう誰のことも好きにならない。統も……政略結婚はしないにしても、次の相手を探すならもっと素直でかわいげのある人を選んだ方がいいよ。なんて、余計なお世話か」

 彼の方を振り向かずに話し、最後は自虐的に笑った。

 統もようやくあきらめたのか、私の手首を解放してくれる。

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