ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
そのままスタスタと部屋を出て行こうとしたその時、ふと、壁に掛けられたコルクボードが目に留まった。
趣味で撮ったらしい花の写真やモノトーンのポストカードに交じって、見覚えのあるカードが小さなピンで留められている。
あのブーケのイラスト……昔の美吉ブロッサムで使っていたショップカードに似てる。昔、統も店を訪れたことがあるのだろうか。
そうだとしても、私にはもう関係ないけれど……。
コルクボードの前で足を止めたのは一瞬で、私はそのまま彼の部屋を出る。
リビングに戻ると嫌でもさっきのキスの記憶が蘇ったけれど、ズキズキと胸が痛むのを無視し、バッグを見つけると彼の元へ戻った。
統はすでに部屋を出て廊下で待っており、私が差し出した指輪の箱を静かに受け取った。
一瞬切なそうな表情を浮かべた気もしたが、深く考えないことにする。
「送っていく」
彼は手にしていた車のキーを軽く鳴らすと、それだけ言って私に背中を向け、玄関に向かう。もう私の方に手を伸ばそうとはしない。
そっけなくされて傷つく権利なんて私にはないのに、引っ掻いたような痛みがいつまでも胸の奥に残った。