熱烈求婚お断り!〜ライバル企業の御曹司が夫に立候補しています〜
豪華な装花の依頼

 統との最初で最後のデートとなったあの日、合鍵と指輪を突き返した私を彼はマンションに送り届けると、『風邪、早く治せよ』とだけ言って帰っていった。

 私は勝負に勝ったのだ。だから、彼が二度と私に構うことはない。

 心を悩ませる問題が解決し、あとは仕事に邁進するだけ。

 望んでいた平穏な毎日が戻ってきてホッとしている……と言いたいのだけれど、ふと気を抜くと、統とデートした日の色々な記憶が勝手にまぶたの裏に浮かんで、私の胸を締めつけた。

 電話が鳴ると、もしかしたら統……? と、毎回のように思ってしまうし、部屋のチャイムが鳴るとまた彼が突然来たのではないかと、緊張してインターホンのモニターを眺めるのが癖になっていた。

 自分でも馬鹿みたいだと思う。だから、こんな身勝手な気持ちは誰にも話せていない。
 
 元々彼との関係を心配していたカンナにも、打ち明けられるはずがなかった。


 
 デートから二週間が経ち、六月も下旬に差し掛かっていたある日。

 私は外でひとりランチを済ませた後、表参道の本社一階にある美吉ブロッサムの店舗を訪れた。

 一日に一度は店舗を覗きに行くのが習慣なのだ。

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