ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
梅雨真っただ中の今、店のディスプレイの主役は紫陽花の花だ。
雨の季節を美しく彩ってくれる風物詩に、たくさんのお客さんが足を止めている。
手毬のように丸くなってたくさんの花をつける品種や、蕾のように粒々とした両性花の周囲を縁取るように装飾花が咲くガク咲きの品種、外国からやってきた紫陽花には、密集した花の直径が三十センチを超えるものもある。
それぞれに美しい紫陽花をなにげなく見ていると、不意に記憶の断片が脳裏をよぎった。
あれはまだ、私が高校生の頃。ちょうど今と同じ梅雨の季節だった。
私は学校が終わると毎日のように祖父母の店を手伝っていたけれど、連日の雨でお客さんの数も少なく、少し退屈に思いながら店番をしていた。
その時訪れた男子高校生が、私が初めてひとりで作った紫陽花の花束を買ってくれたのだ。
彼は背が高く、キャメルのブレザーにグレーのスラックスの制服を着ていた。
私が通っている公立高校とそれほど遠くない距離にある私立校のものだ。
顔をハッキリとは覚えていないもののとてもカッコいい人で、思わずショップカードを渡してしまったっけ。