ライバル企業の御曹司が夫に立候補してきます~全力拒否するはずが、一途な溺愛に陥落しました~
「それで……なんでここに?」
「もちろん、苑香さんに会いに来たに決まってるじゃん。見ての通り弱ってるんだよ、俺。その上自分の家のそばにはまだマスコミがウロウロしてるし、匿ってくれない?」
遼太くんの手が、私の服をきゅっと掴む。
付き合っている時は、『しょうがないなぁ』なんて言いながらも、遼太くんにこうして頼られるのがうれしかった。
でも、彼への信頼が跡形もなく崩れ去った今では、大人のくせになにを甘ったれているんだろうとため息をつきたくなるだけだ。
「ごめんなさい。私、もう遼太くんの力にはなれない」
きっぱりと言って、彼の手をそっとほどく。
遼太くんに対してすっかり未練がなくなっている自分にホッとした。
「苑香さん、新しい彼氏いるの?」
彼に背を向けエントランスに向かおうとしたら、引き留めるようにそう聞かれた。
一瞬だけ統の顔が脳裏をよぎったが、すぐに打ち消す。彼は他人だ。
「別にいないけど……」
首だけ遼太くんの方を振り向いて答えた。
「だったらいいじゃん。家に置いてくれるなら、寂しがりの苑香さんのこといっぱい癒やしてあげる。俺が出てるカイロのCM見たことある? あんな風にさ」
植え込みから腰を上げた彼が甘い目をしてじりじりと近づいてくる。